〈ファンづくりのヒント〉
第1回 企業のファンづくりに
なぜ「編集力」が必要なのか

現代はあらゆるモノが溢れ、ほとんどの消費者ニーズは満たされた状態です。その中でモノやサービスを選び取ってもらうとき、重要なのが「ファンづくり」と言われています。日夜この「ファン作り」に頭を悩ませるマーケティング担当者も多いのではないでしょうか? 『集英社ADNAVI』 ではそんな方々に向けて、アイデアの閃きの素となるような新連載を開始します。題して「【仕掛け人インタビュー】ファンづくりのヒント」!

第1回の仕掛け人インタビューは、2019年に編集者のスキルを活かしたソリューション実現集団として発足した「集英社エディターズ・ラボ」の中心メンバー、内田秀美。エディターズ・ラボは、ブランドサイトのコンテンツ制作、コンサルティング、イベント企画…と着実に実績をつんでいます。

2021年には、今までのファッション・美容誌メンバーに加え、漫画、文芸、ライツ部門の委員も加わって、オール集英社の取り組みとなりました。活動の前身とも言える、内田の手掛けたプロモーションの中には『GUCCI × ジョジョの奇妙な冒険』『カルティエTANK100 × 香取慎吾』など、人が「あっ」と驚くものも。今回はそんな彼女の仕事の秘訣を深堀りしながら、「ファン作り」と「編集力」の関係について紐解きます。

現在は取締役として第7編集部(ウオモ、メンズノンノ)第8編集部(シュプール、マキア、T JAPAN)
エディターズ・ラボ、整理編集部をまとめる内田秀美

– 雑誌編集という枠にとどまらない施策を仕掛ける「エディターズ・ラボ」、その発足理由。

まず エディターズ・ラボを立ち上げるきっかけからお話すると、私は雑誌『SPUR(シュプール)』を25年くらい担当してきまして、編集長をしていた後半の6年(2007年~2013年)は、ファッション誌の枠でくくれないような相談を多く受けました。例えば「ある車を、若い女性に売るための施策はないか?」とか。ご相談を受けて車の販売店と化粧品ブランドのコラボを提案し実施しました。他にも「雑誌作りの知見を活かして乳製品の商品開発に協力してほしい」などの企画が持ち込まれることもあって、仕事をするうちに「これは新しいサービスになるな」と。

2013年には社内に「コミュニケーションデザイン室」という部署を作ったのですが、はじめはたった3名で活動していました。正直なところ「よし立ち上げるぞ」という意気込みではなくて、「エディター」の仕事の延長で自然に発生したイメージです。今はエディターズ・ラボとなって、集英社のほぼすべてのジャンルの編集職が集う大きな組織になりましたが、なぜそうなったかといえば、全社横断のチームのほうが提案するアイディアの幅が広がるから。エディターズ・ラボ専任はおらず、皆普段は雑誌の業務に携わっています。そしてご依頼いただいた案件ごとに、適したエディターを選出して専用チームを作ります。なので、「私たちはあくまでもエディターである」という意識をもって取り組んでいます。エディターの仕事の基本は読者に喜んでもらうことですが、その相手がプロモーション先のお客様に変わり、表現方法が広がっただけなんですよ。

(左上)日本郵政様のサイト『JP cast』のコンテンツ「わたしたちの郵便局ものがたり」を制作
(右上)着こなし発見アプリ「StyleHint」のデジタルコンテンツを制作
(左下)ビームス様のECサイト誘導のため、ファッション初心者向けの記事を制作
(右下)麻布テーラー様のブランドイメージムービー(約90秒)を制作

– 「集英社 エディターズ・ラボ」の名前の由来となったエディター=編集者。編集的発想でしか生まれない表現とは?

手前味噌になりますが、集英社のエディターは「プロの知識・センスがありながら、生活者に近い」それが他にない強みだと思います。集英社は総合出版社としてファッション・ビューティ・漫画・文芸など幅広いジャンルを扱いますが、それぞれのエディターは各ジャンルをとにかく深く掘り下げている。例えば『MAQUIA』のエディターであれば化粧品、『UOMO』であればメンズファッションのエキスパートです。

さらにポイントとなるのが、何万、何十万という読者=ファンの目線を知っているということ。「最新の動向」はもちろんのこと、長年担当して読者に伴走してきているので20代→30代というように、世代を跨いで価値観が変わっていく様なども把握しているわけです。そういった知見は、ご提案する上で大いに生きていると思います。実際、読者の一代表のような立場で、製品やサービスに率直に意見することもあります。エディターはひとりであっても、その後ろに何万人、何十万人という読者の志向や気持ちを背負っています。「ファンづくり」という観点で言えば、これほど自然にファン目線を持つ仕事人はなかなかいないはずです。

また、仕事上多くの業界や人と関わりますよね。「このブランドなら絶対にこの写真家があう」とか「この漫画とこのファッションはコラボできるのではないか」など、知見と関係性をうまく紐づけられるのがエディターだと思います。

『SPUR』2011年10月号表紙

– ファン作りにつながる「編集力」の中身。それを鍛える方法も公開!

私が思う編集力とは…昔から言っているのですが「何かと何かを結びつけて、さらに新しい何かを作り出す力」ですね。私が2011年に『GUCCI × ジョジョの奇妙な冒険』のプロモーションを担当した際の話をしますと、この企画は本来別々に存在したものだったんです。漫画サイドには「画業30周年を迎えた荒木飛呂彦先生の記念企画をやりたい」という話があり、私が担当していた『SPUR』にはちょうどGUCCIから「90周年のために何か企画を考えてほしい」という問い合わせがありました。

今でこそ当たり前になったファッションと漫画のコラボですが、当時は異色だったと思います。そこをファッション誌と漫画のエディターが一緒になって、自分たちの知見や発想を活かして(料理にスパイスを足すように)「私たちにしかできないこと」にしていかなければなりませんでした。結果、GUCCIの協力や、荒木先生の描く魅力的なキャラクターの力にも支えられ、『GUCCI × ジョジョの奇妙な冒険』は世界的なプロモーションにまでなりました。全世界70店舗以上のウィンドウに日本の漫画キャラクターが並ぶ光景は、素直に素晴らしかったです。こういったことが達成できたのは、やはりエディター的発想があってこそだったと思います。

先ほど「編集力はどう鍛えたらいいのか」と質問がありましたが、これって長い経験がないとできないとか、人脈がないと…という話ではないのです(私自身あまり「人脈」という言葉は好んでは使いません)。

必要なのは日々自分の心に響いたこと、感動したことをどう企画まで落とし込むか考えること。例を出すと、ある日「カレーを食べに行った」とします。「そこは専門店ではなくレトロな喫茶店で、年老いた店主がひとりで調理するお店だった」。どんな企画ができると思いますか? 「残したい! レトロ喫茶の50年モノのカレー」などと組んだら、カレー好きな人はお店の代が替わってしまう前に行っておこうと思ってくれるかもしれないし、味を受け継ぎたいたいという人も出てくるかもしれませんよね。単純に「いいカレー屋さんがあります」「レトロ喫茶があります」ではなくて。日々考えていることや問題意識と紐づける癖をつけるというのが編集力を鍛えるいい訓練になります。自分が編集の現場にいた時は、毎月B4用紙にびっしり企画を書いていて。それを全員が集まる編集会議で発表していました。だから毎日毎日どんな些細な言葉や出来事も、何かと紐づけて考えていないと、そもそも企画出しに間に合わないという現実もありました。笑

– これからの時代と「ファン作り」を見据えて。エディターズ・ラボのオープンマインド。

時代という観点でいうと、やはりコロナ禍の変化は大きかったと思います。弊社ではコロナ禍にたくさんの媒体でアンケートを取ったのですが、顕著だったのは多くの人が「じっくり考えて買う」「買うものの背景まで考える」と答えるようになったこと。店頭でなく自宅でゆっくり検討するとか、調べて知ってから買うということが増えたそう。だから商品やサービスの背景にある、世界観や物語がより重視されるわけです。しかもSNSであれ雑誌であれ動画サイトであれ、すでにパブ側も消費者側も発信する場所が整っていますから。そこに「誰がやっても同じ」というものを投下しても、見向きもされないですよね。

だからこそ、「コンテンツ力」が問われる時代。今ファンを作って巻き込める人は、自分なりの「これが面白そう」「これをやりたい」というものを明確に持っています。プロも独自性がないと厳しい反面、やりたいことがある人勝ちなのである意味楽しい時代なんですよ。

若いエディターたちにもそれは伝えています。雑誌の場合、読んでくださる方はすでにそのジャンルのファンである訳です。化粧品やファッション、カルチャー、それぞれをかなり好きな人が買ってくださっている。ファンを作らなきゃいけない時代に、すでに何万というファンが期待して見てくれる媒体があるのだから、あとはおもしろい「コンテンツ」を投入するだけでしょうと。クライアントにとっても1からファンを作り出すより、すでに何十年とデータが取れていて、素地がある場所に投下できるというのは大きいはずなんです。そこでさらにファンを作り出すために、何をどんな発想で投下できるのか、それこそエディターの腕の見せ所。

私が『SPUR』の編集長だった時にメンバーと共有したことなのですが、『SPUR』ではとにかくプラスの表現をしていこうと意識していました。「キレイ」「面白い」「幸せ」「楽しい」。写真も文章の表現もネガティブなものはいらないんじゃないかと。結局、作る側が楽しくなければ面白いものなんてできないじゃないですか。仕掛ける側も楽しんで作るものだからこそ、受け取る側にも伝わっていく…そういったコンテンツが多くのファンを作るんです。これから依頼を考えてくださる方にも「何か楽しいことをしましょう」というマインドで、一度私たちと一緒にお仕事をしてみませんか?と呼びかけたいです。

最後にエディターズ・ラボの最新事例を少しだけ紹介させていただきます。日本郵政『JP cast(https://www.jpcast.japanpost.jp/)』の「わたしたちの郵便局ものがたり」が公開されました。『JP cast』は郵政の魅力を発信するオウンドサイトです。今回その目玉となるコンテンツをエディターズ・ラボにご依頼いただきました。制作にあたっては作家さんや俳優さんに参加いただき、郵便局にまつわる様々なエピソードを読み物だけでなく動画でも発信しています。

郵政の魅力ってまだまだ知られていない部分もたくさんあるんですよ。例えばそこで仕事をする人だけでも、実は全国に40万人もいらっしゃる。それだけでもすごいことですよね。利用者だけでなく、働く人にも郵政の魅力を改めてお伝えしてファンになってもらいたいと考えています。「わたしたちの郵便局ものがたり」は登場する5名の人選にはすごくこだわりました。実際にデビューするまで配達員をしていた芸人さんも参加しています。リアルな姿を描くからこそ面白いし、知らなかった配達員さんの苦労や仕事への想いもそこに見えてきます。最新事例については集英社ADNAVIはもちろん、エディターズ・ラボの公式サイトでもどんどん公開していきますので、ぜひチェックしてください。

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