「MORE JAPAN by SHUEISHA」特別企画【後編】
地方創生における出版メディアの役割とは?

「日本の、地域の魅力を、もっと。」をテーマに集英社が進める地方創生プロジェクト「MORE JAPAN by SHUEISHA」の鼎談企画。後編では、メディアが地方創生に取り組むことの意義とその可能性について、内閣官房 地域未来戦略本部事務局の岸田里佳子審議官と、「MORE JAPAN」発起人の中田貴子、「MORE JAPAN by SHUEISHA」プロジェクトリーダーの清田恵美子が語り合いました。※文中敬称略

 

「MORE JAPAN」による地方創生取り組み事例

中田 雑誌『MORE』が取り組んできた地方創生プロジェクト「MORE JAPAN」の事例としては、佐賀県鹿島市制70周年記念誌「かしまBOOKがあります。鹿島市の魅力を再認識することで地元への愛着や誇りを深めることを目的に制作されたこの冊子は、鹿島市民の皆さんに登場いただき「思わず笑顔になってしまう鹿島市の魅力」を70通り集めて1冊にまとめました。地元の方にとって“当たり前”のことでも、私たちから見ると“素敵な魅力”という部分も含めて、他にはない鹿島市の魅力を改めて再発見し、若い世代にも響く形で届けることができたと思います。鹿島市の成人式や市民向けワークショップなどで配布され、地元の魅力を知る教科書のように活用してくださっています。

岸田 すごく素敵ですね。この「かしまBOOK」を拝見していると、洗練された写真やデザインによって発信することの重要性を改めて感じます。若い世代も含めその地域に住んでいる方が「うちの地元っていいよね」と思えることはもちろん、旅行などで訪れる方へのアピールにもつながりそうです。

中田 ありがとうございます。もうひとつは、読売広告社「CIVIC PRIDE®」編集部と共同で調査・作成した「20~30代女性の『二拠点生活』調査レポート」です。二拠点生活への興味関心を持つ20~30代女性を6タイプ別に分析、どのタイプにアプローチするのが効果的なのか50ページ超のレポートにまとめ、さらに企業担当者、若年女性層の移住や関係人口づくりの課題に取り組む地方自治体や地域創生担当の方に向けたトークイベントを開催しました。見えてきたのは、都会も地方も軽やかに行き来し、どちらかを選ぶのではなく両方を満喫したい“人生よくばりタイプ”の存在でした。

岸田 なるほど、非常に勉強になります。20〜30代の女性という、なかなか上手く意見をすくい取れない方たちの声を届けていただけることは本当にありがたいですね。それに、 “よくばり”って悪くないですよね。

メディアが地域の魅力を発見・発信することの意義

中田  そう思います。「MORE JAPAN by SHUEISHA」を通じて、メディアがどのように地方の課題や地方創生に関わっていけるのか手探りの部分もありますが、岸田さんのお立場から我々に期待されるのはどんなことでしょうか?

岸田 「MORE JAPAN by SHUEISHA」のように、出版社が全社的に取り組んでくださるなんて感謝しかありません。プロジェクトでは、女性を中心とした若い世代をターゲットにされていますよね。自治体をはじめ、各地域の現場で活性化に取り組まれている方々にとってはアプローチしづらい層ですし、そもそも若い世代に向けたスタイリッシュなアプローチの方法がわからないということもあると思うんです。ですから、訴求したい層に向けて洗練された手法を熟知されているメディアの方々に自分たちの地域を外から見てもらえるなんて、日本全国どの地域の方にとっても嬉しいことですし、ものすごく求められていると思います。どんどんコラボしていきたいですね。

清田 今おっしゃっていただいたように編集者が新しい視点で地域を捉えるという側面に加えて、私たちは日々たくさんの読者の方と向き合う中で皆さんの生の声を聞いたり、ターゲット層に深く刺さる伝え方を考えたりすることも得意なので、そういう部分も活かしていけたらと思っています。

岸田 いちばん知りたいけれど見えにくい、若い女性たちの本音が“見える化”されることは本当にありがたいです。トレンドをつくっていらっしゃるメディアから取材を受けることはほとんどないので、今回のお話自体も私にとっては大感激です。

地方創生とは、「自分のためのライフスタイルの選択」

清田 ありがとうございます。そんなふうに言っていただけると大きな励みになります。女性に限らず、「この点についての本音を知りたい」というトピックはありますか?

岸田 たくさんあります。例えば、「若い女性にとって魅力的な職場って何だろう?」とか、若い世代が「地方で暮らしていて足りないと感じるもの」や「将来の生活圏として地域を選ぶときの基準」などは、よりリアルな声がわかると嬉しいですね。

中田 若い世代の人たちと話をしていると、「30歳までにいろんな選択肢を自分の中にストックしたい」と話す方が多いんです。「趣味も仕事もいろいろなことにトライして、30代になったらその中からいちばん好きなものを選んでいきたい」と。趣味や仕事だけでなく、食べるものや買うもの、住む場所などもそういう傾向にあるのかなと感じますね。

清田 しかも、好きなものは1つではなく、2つでも3つでも選びたいという人が増えているようです。

岸田 まさに“人生よくばりタイプ”ですね。でも実際、食べものや素敵なお店など「これがあるから、この街に住みたい」という要素は必ずあるように思います。

中田 おっしゃる通りだと思います。そして「地方創生」と聞くと非常に難しそうに感じてしまうので、「自分のためのライフスタイルの選択」として伝えていけたらと思いつつ、その表現方法についてはもう少し深掘りする必要性を感じています。

岸田審議官の執務室。 ドアの前には全国各地のご当地キャラたちが並んで出迎えてくれる

まちづくりを専門に30年。岸田審議官流・街歩きの楽しみ方は?

清田 ちなみに、岸田さんは講演や視察で全国津々浦々を訪ねられていると思いますが、例えばその地域の役所やカフェなど、必ずチェックされるポイントはあるのでしょうか?

岸田 基本的には道路から街並み、街の構造まですべてを見ています。訪れた先では、1日7〜8時間ぐらい街の中を歩きまわりますね。見どころは尽きませんが、例えば伝統的な石垣の組み方は地域によってまったく違いますし、瓦の色も地域によって特色があります。わかりやすいものでいうと、城下町などでは「山あて」といって、その地域の景観となる山に向かって街が開けていく古来の都市のつくり方を採用していたり、「鍵構造」といって防衛のため意図的にお城への見通しが悪い構造になっていたり。他にも、漁村などは幅60cmぐらいの狭い道がたくさんあって、その奥に進んでいくと理髪店などがあったりします。意外とユニークなつくりの街は多いので、ぜひ訪れた先で探していただけると面白いのではないかと思います。

中田 面白い!いつか一緒に本をつくりませんか?

岸田 マニアックすぎてすみません(笑)。もう30年ほど、まちづくり関係の仕事ばかりやってきたので・・・・・・都市計画マニアなんです。

 

女性誌の鉄板コンテンツ・・・・・・働く女性・岸田審議官への一問一答!

Q.自分のキャラを一言で言うと?

A.たぶん職場の人にはびっくりされると思いますが・・・・・・娘からは「乙女チック」と言われています(笑)。実は心に夢と希望を抱いて生きています。

Q.官僚になってよかったことは?

A.携わった制度について喜んでもらえること。まちづくりのルールをつくる仕事に携わっているので、地域の皆様から『この制度があってよかった。ありがとう』と言っていただけると、すごく嬉しいですね。

Q.お仕事バッグの中身、見せてください!

A.バッグは完全に仕事仕様なので、内ポケットが多くてPCが入るサイズが大前提。肩にかけられること、自立して足元に置いておけることもポイントです。コスメポーチは岡山市のノベルティグッズ。昔の歌舞伎座が描かれた扇子は、中央区に出向していたときのもの。仕事の場で使うネックレスやイヤリングなどは、セットにしてアクセサリーケースで持ち歩いています。小さなフォトキーホルダーには子どもの七五三の写真を入れています。

 

鼎談を終えて・・・・・・

「MORE JAPAN by SHUEISHA」プロジェクトリーダー  清田恵美子

「地方創生」というと身構えてしまいがちですが、心地よい暮らし方のイメージを柔軟に広げてみること、多様性の実現に向けてちょっとだけ意識を更新することなど、じつは私たちひとりひとりの心持ちが大切なのだということを、岸田審議官との対話で改めて感じました。

そんな中、MORE JAPAN by SHUEISHAは何ができるのか――。若い世代や働く女性といった特定の視点で地域の魅力を捉え直し、楽しくわかりやすく発信することや、課題に応じた意識調査やワークショップなど、幅広い読者・ユーザーと寄り添い続けてきた集英社だからこそのスタイルで、各自治体の皆様とも対話を重ねながら共に取り組んでいきたいと考えています。

 

◆前編を読む
「MORE JAPAN by SHUEISHA」特別企画【前編】 内閣官房 岸田里佳子審議官に聞く「地方創生」の現在地

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