SPUR.JPの美学と挑戦。
「モード」の世界を、
生活者にも身近な形に。
仕掛け人インタビュー第8回は、SPUR.JP編集長 五十嵐真奈。
ファッションや美容にとどまらず、SDGsや生活者に身近なモノコトも幅広く取り上げ、新時代のモードメディアを作り上げています。編集長のビジョンや、今後の挑戦について詳しく聞いてみました。
五十嵐真奈:1996年入社、SPUR編集部に配属。2011年MAQUIA編集部に配属され、2013年SPUR編部に戻る。2017年SPUR編集長に就任し、ファッション・ビューティ担当として両分野で記事制作してきた経験をもとに、”絵力”最優先の編集者人生を送っている。インスタグラム担当として「SPUR編集G」として毎日投稿中。SPURおやつ部部長。
– 今の時代に必要なのは、「イマジナリーフレンド」みたいな存在かもしれない。
いよいよ2023年。みなさん2022年はどのような年だったでしょうか? コロナ禍が長引く中で暗いニュースが増えたなっていつも気にしていたんです。人と会うことも少なくなって、つらい気持ちを出す場所がない人もたくさん居らっしゃるんじゃないかと。そこに何かできることがないかと考えた時、「イマジナリーフレンド(自分の心の相談相手。実在しない空想上の友達)」のような存在が必要かもしれないと感じていました。
私自身、学生のときから雑誌が大好きで、外で辛いことがあっても「家に帰ればあの雑誌がある!」なんて考えていた。雑誌には楽しい世界や、憧れの世界がありますからね。メインのコーナーだけじゃなくて、読者コーナーの一語一句まで余すところなく読むくらい。今思うとその時の自分にとっては、雑誌=イマジナリーフレンドだったんですよ。だから『SPUR』も、そうありたいと考えたんです。
お取引先にお送りした年賀のご挨拶にも「心の親友」というキーワードは書いたのですが、読者にとっても、クライアントにとってもそうでありたいんです。構えずになんでも相談できるような存在になりたい。とくに『SPUR.JP』ではプリントとは違う温度感での“モード”を表現したいと考えています。生活圏内のモノコトを入り口に、モードの世界に案内するような、「わたしたちの生活に近い所」も表現していきたいです。
-「誰かの心を満たす」という、コンテンツのあり方。
私が部長を務めている「SPURおやつ部」のある理由のひとつもそこですね。モードメディアというとラグジュアリーなハイブランドやジュエリーってイメージがある中、そこにおやつ。なぜって思われた方もいたかもしれません。でも、落ち込んでいるときにちょっとおやつを食べると安心しますよね。とくに甘いものなどは格別です。仕事終わりや人間関係に疲れた時、気分転換に見たいもの、と思ったらSPUR.JPにおやつってやっぱり必要な存在なんです。
以前、広島のにしき堂のもみじまんじゅうの記事を書いたとき、非常に印象にのこったメーカーの方の文章があります。それは、「お菓子を食べながら喧嘩をする人はいない、だからお菓子は“平和の食べ物”なんです」という言葉。私、本当にその通りだなと感じまして。ラグジュアリーなものも、楽しいことも、人の穏やかな生活の土台の上に成り立っている。私達がコンテンツで大事にすべきことって、「みんなが憧れるモードの世界観」であると同時に、「生活者を突き放さないリアルさ」であり、心を満たすことだと思っているんです。
- 意外な組み合わせが「化学反応」を生む。
SPURで構成を考えるときに意識しているのもまさにそこで、モードを“リアル”に感じてもらえるような工夫ですね。ただラグジュアリーなだけではなくて、写真を通して、自分の生活に投影できるかどうかが重要。とくに、プレタポルテの服を特集するときは、コンテンツの先に「自分の生活」をみてほしいと思って撮影を工夫しています。
撮影をする際には、スタッフ間で「裏テーマ」を設定して、共通の世界観を持って作業することが多いです。たとえば「あの映画のような雰囲気で」とか「〇〇の本のような世界観で」とか。プリントやWEBサイトでテーマを明言することはありませんが、気づく人が写真を見てニヤッと楽しんでくれていたら嬉しいですね。
それと、大事にしているのはどこかギャップを作ること。ハイジュエリーにスウェットを合わせたり、意外な組み合わせや“違和感”が生む化学反応もあるでしょう。ただの「憧れ」で終わらない、手の届く表現もSPURは得意としています。
同じような化学反応の事例で、「AHKAH」様の特集では、大平修蔵さんを起用しました。あえて彼に着用してもらうことで、デザインがいっそう引き立ち、いつも以上に話題になりました。こういった特集ではモデルの選定そのものにも非常にこだわっており、若手の俳優など「これから」という人を積極的に起用しています。起用した方がブレイクして再度注目が集まる例もあり、クライアントにもSPURの目利き力は好評をいただくことが多いのです。
– SPUR読者は「年齢」ではくくれない。ファッションを通して、社会のことまで考える人たち。
SPURは、集英社の雑誌のなかでは珍しく、年齢でのセグメントはしていません。何歳だからこういうファッション……という括りじゃないんです。プリントの方は創刊してから34年たっているから、当時ハタチだったひとは54歳。でもずっとモードが好きで、読み続けてくださってる人もいるはず。
では、読者の皆さんの共通点はどこかというと、「モードが好きで、社会的意識が高い」ということ。ファッションは着飾るだけで成立しないと考えている。そのブランドにある、背景まで考えたいという人が多いのだと思います。どこの産地のものを使って、誰が働いてできたもので、使うことでどんな意味を持つのかというところまで。だからSPURでは、ファッションを中心に美容はもちろん、SDGsやフェムテックなども幅広くコンテンツを扱いますし、そこからの反響も大きくなっています。例えば「代理母」を特集として扱ったときは読者のお声とあわせて、NHKから別途取材の申し込みもありました。
ファッションとこういったことを一緒に扱うのは、難しいと感じるブランド担当者もいらっしゃるかもしれません。なぜSPUR編集部で多くの社会的な話題をまとめて扱っても成功しやすいのかというと、意識しているポイントがあります。それは「これはこう!」と決めつけた表現をしないということ。「こんな見方も、こんな見方もあります。ではあなたは?」と読者の考えるきっかけになるような形にしています。いつも読者の「想像力のスイッチ」を押せるようなメディアでありたいんです。
– SPUR.JPは「一番親しみがもてるモード媒体。2023年はスタートから新施策多数。
改めて2023年という新しい年。SPUR編集部では「新時代にあるべきモードメディアとはなにか」という原点も見据えながら、新しい施策を打ち出してまいります。
まずは、SPUR.JPにコーナーが増えます。「お悩み相談」や「お仕事図鑑」といった読者の皆さんに様々な情報を提示できる場所を作ります。お悩み相談は読んで字のごとくですが、お仕事図鑑については、転職にご活用いただけるような情報のほかに、モードメディアならではの題材も扱います。宝石の刻印を専門とする「エングレーブ」に従事するプロの話など、専門性の高い仕事のご紹介もしたいなと思っています。これからの時代は変化をためらわない人=どんどん動く人が輝いていくはず。その知的好奇心や行動力の一助になるようなコーナーをSPURで作っていきます。2月には第一弾の公開です!
そして、もちろんブランドのラグジュアリーな世界観にどっぷりひたれる企画もご用意しています。とくに特集してみたいと思っているのは「メイクアイテムの名前の由来」。メイクアイテムって素敵な名前がたくさんついているでしょう? ブランドの担当者さんに直接由来を伺ってみたい。知ることで使うアイテムがもっと趣深くなるはずです。ぜひ各企業のブランド担当者様も、これは!と思われましたらお気軽にご相談ください。公開プランにない施策でも、編集部一同喜んで一緒に考えてまいります。「一番親しみが持てるモードメディア」として、進化するSPURにご期待ください。
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・第1回〈集英社 エディターズ・ラボ〉企業のファンづくりになぜ編集力が必要なのか。
・第2回「面白い」を形にする。WEB UOMO編集長の企画力の源泉。
・第3回 ファンを惹きつけてやまない 「ひとりっぷ」というコンテンツの秘密。
・第4回「漫画」のさらなる可能性を追求。『少年ジャンプ+』が目指すところ。
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・第7回 進化し続けるLEEのファンコミュニティ「LEE100人隊」のパワーとは?